貨物船

男は乗組員だった。

命からがらここまで逃げて来て何かの木片にしがみつきながら、今は沈みゆく貨物船を眺めている所だ。

海は黒く波は小さく打ちながら、時折ギラギラと光り男と木片を浮かべている。

男はふいに辺りが暗いのが気になって空を見上げると、月が傾き始めたのを見た。

月が何かおかしいことに気がついたのは間も無くだった。

こちらへ向かってくるのだ。星を避けているのか進路を細かく変え、形までもぐねぐねと変えながら。

それは様々な動物の形で、しかし船のように三日月形で上に人が乗っている、という事が分かった時には月の船は沈みゆく貨物船の真上に来てぽっかりと、空に浮かんでいた。


月の船に乗る人達は男女年齢様々で、動物や貨物のような物も乗っていた。

皆聞き覚えのない歌を歌い、それはなんだか男の胸に深く染みてきて木片を掴む手に力がこもった。

月の船に乗る女達が次々肩に掛けたショールを外し、船べりに手を掛けながらの海の方へショールを垂らしはじめた。

そのショールはいかにも不思議で、風にあおられひるがえりながら所々がぼんやりと明るく光ったり、時々花火のようにするどく輝いたりした。

それはひとりでにぐんぐんと伸びてついに海面に着き海に潜ったかと思うと、どうやら沈みゆく貨物船の下を通りまた空へ向かって登りショールを垂らした女達の反対側にいる人達の手に渡っているようだった。

ショールが一本、また一本と反対側にいる人達の手に渡るとショールがかけられた沈みゆく貨物船はしだいに浮き上がり、最後の一本が反対側の人の手に渡る頃にはすっかり空へ浮かんで月の船の真下へ来ていた。

月の船は貨物船をぶら下げながらまた、動き出した。

どんどんどんどん遠くなって行く。

空と海の境目に月の船と貨物船が吸い込まれるように消えて行った。

男は思わず、「さようなら。」とつぶやいていた。

つきさすように眩しい光りで男は太陽が昇ってきたのを分かった。

瞬間、救助船が来たのだとけたたましい笛の音で気がついた。




「貨物船」

制作・文・bambi☆(花ケモノ)撮影・キノムクヤ


花ケモノ

花のようにわらっては ケモノのように命を繰り返す

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